最近は様々な品種改良だの、南半球からの輸入だののせいで、
作物における 所謂“旬”だの季節感だのが薄れて来たようで。
初夏の果実であるはずなイチゴが
今や国民的な催事と化したクリスマス向けに大量生産されるようになり、
本来の季節には露地ものがぼつぼつと扱われる程度となったし、
キュウリやトマトは通年でほぼ安定した価格で手に入るほど。
そうは言ってもやはり
“収穫の秋”やら“実りの秋”と呼ばれる季節であるのは変わらぬようで。
金木犀の甘い香りがどこからともなく届く昨今、
栗や柿、梨にブドウ、早生のリンゴの話題に続き、
透明感を増した青空にいや映える、
コスモスの群生が満開ですと報じられているニュースをネットで見もした。
自分はどちらかというと、
曼殊沙華の毒々しくも寂寥感ただよう赤の方が似つかわしい身だが、
「何だ、この餓鬼っ。」
「諦めてお縄につきなさいっ!」
煤けたコンクリが打ちっぱなしになっている旧の波止場で、
暴れ盛りのゴロツキどもが往生際悪く掴みかかってくるのへと立ち向かい。
柔軟な足腰のバネを利かせての素早い横っ飛びで右へ左へ振り回し、
顔やら懐やらへ飛び込んでくる拳を受け止めては、
そのまま足元へドカンと叩きつける格好で
次々とねじ伏せておいでの勇ましさもそれは凛々しい、
なかなかに頼もしき部下である虎の少年のほうは。
あれでも日頃は打って変わって、天使のようにやわらかな和み系なので、
秋の陽を受けて淡く光る銀の髪や色白な頬には
パステルカラーの花畑がさぞかし似合うだろうなぁと感じ入り。
“ヨコハマ近辺にも名所は多いしなぁ。”
ぱかりと開いた携帯電話、慣れた手つきですいすいと検索を掛けてみる。
ああ、結構 近所にも広々したのがあるじゃないか、
手が空いたら連れてってやろうか、いやいやそういうのは中也の役目かなと。
突堤の外れという場末にて展開中の
匕首や拳銃も持ち出されているよな乱闘場にて、
ようよう使い込まれて艶の出た、船を係留するロープを掛けるためのクジラの頭のような鋼柱、
専門用語でボラードと呼ばれる繋具に腰掛けて、
のんびりそんな想いを巡らせて居たりする先輩氏だったが。
「太宰っ、」
「そっち行きましたよっ。」
潮風になぶられる柔らかそうな蓬髪が、そのお顔へ落とす陰もセンチメンタルに。
眼前の喧騒などどこ吹く風、もしかして他人事みたいにゆったり構えていた彼へ。
そんな構えだったからこそ“人質にしてやるべぇ”とでも思ったか、
敦や国木田の猛攻に追い詰められかけていた輩の生き残りが、
心根までもどこか遠くへ駆けって行きかけ、
そんなに大きくもない双眸をくわっと見開いて、そちらへとんでもない駆けようで飛び出して来た。
「…おや。」
さすがにそんな流れは察知したものか、
潮風の中、すっくと立ち上がったすらりとした長躯。
成人男性としてであれ標準よりやや高い上背の、
均整の取れた身をややしならせて立ち上がった美丈夫は、
随分とごついフィールディングナイフを握った手を頂点に、
自身へ突っ込んでくる与太者を真っ向から待ち構えると、
「…っ。」
段取りを打ち合わせてでもいたかのような的確さ、
凶器を握った手首を上からがっしと掴み取り、
相手の勢いを殺さぬまま、ぐいと高々持ち上げて、
「わぁっ。」
相手の足が軽々と地から浮いて、その身が宙へひるがえる。
掴まれた手首を支点に、ぐるんと宙がえりを強制され、
そのまま背中からコンクリの地べたへ叩き落されて、
ぎゃあと叫んで意識を失うまで瞬く間という鮮やかさ。
「太宰さんっ、」
わあと、宝石みたいな曙色の瞳を大きく見張って、
自分たちが相対していた顔ぶれは伸したらしい虎の少年が駆け寄って来て、
「今の凄かったです。」
何とも絵になる処し方だったと、
先輩社員様の格闘技の巧みさへ素直に称賛したその後ろから、
「ったく。やれば出来る身だというに何で最初から加わらぬ。」
二十人以上は薙ぎ倒しただろう賊らを やっと駆け付けた軍警の皆様に任せ、
大して埃もかぶらぬままという、こちらは掛け値なしに武術の達人でもある国木田が
呆れて咎めるような言いようを足す。
「ええ〜?
だってキミら二人っていう荒事の天才が居るのに、
私がちょろちょろ紛れ込んでは足手まといになるかと思って。」
「口だけは断トツで達者だなっ 」
見るからに朗らかな笑顔で
“いやあ参ったねぇ”なんて肩をすくめる太宰のおどけた所作へ、
たちまち国木田がキリキリと怒りだし、
こめかみに血管を浮かび上がらせるのも毎度のやり取り。
先輩方のもみ合い掴み合いに “う〜わぁ〜”と声なき声を紡ぎつつ、
ああそれでも軍警からの依頼案件にも鳬がついたなと、
安堵の苦笑を口許に浮かべた敦くんだったりするのである。
to be continued. (17.10.08.〜)
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*微妙に尺が長くなりそうなお話です。
甘いお話が続いた後ですので、
ちょっとばかり すっとんばったんと埃が立つかもなお話です。
お仕事が暇なら集中も続くのですが微妙だなぁ…。

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